
今日は「IIHS」という自動車エンジニア泣かせのある機関についてご説明したいと思います。
みなさんも、たまに自動車雑誌などを読んでいると、「IIHS」とか「スモールオーバラップ」などという言葉を目にすることがあると思います。
IIHSとはどんな機関か?
IIHS(Insurance Institute for Highway Safety)は、いくつかのアメリカの保険会社が出資してできた機関です。
IIHSは、アメリカで販売されている車に対して、主に車の安全に関わる試験を独自に行ない、その結果を公開しています。
以前ご紹介した50年前の車と現代の車の衝突実験を行なったのもIIHSでした。
先ほど、エンジニア泣かせと書きましたが、IIHSはアメリカ中に多大な影響力を持つとともに、そのIIHSが行なう試験が非常に難易度が高いことから、各自動車メーカーはその対応に苦しめられているというのが現状です。
しかしその一方で、車の安全性向上に非常に大きな貢献をしていることも事実です。
IIHSの厳しい試験とは?
そんなIIHSが実施している衝突安全試験で最も厳しいのが、スモールオーバラップ試験です。
本来、自動車は衝突した時に車体骨格を効率良く潰すことで、衝突エネルギーを吸収し、乗員に加わる衝撃を軽減する構造となっています。
しかし、このスモールオーバラップ試験は、車のタイヤの前あたりが剛体壁に当たるような衝突試験です。
しかも、その速度は64km/h。
従来の車の構造では、タイヤ前の部分は硬い骨格が存在していないため衝突エネルギーを吸収することができません。
そのため、乗員がいるキャビン部分がそのままの勢いで剛体壁にぶつかってしまうのです。
この衝突試験が導入された2013年当時、IIHSが発表した結果は、ほとんどの車が最低評価の”poor”でした。
実際に世の中で起きている事故形態
このスモールオーバラップ試験のような形態の事故は実際世の中で頻繁に起きています。
例えば、対向車と衝突しそうになったとき、人は咄嗟にハンドルを切ります。
しかし、完全には避けきれなかった場合、このスモールオーバラップ試験のような形態で衝突することになるのです。
そのため、自動車メーカー各社は、すぐに対策構造を織り込みました。
トヨタが新プラットフォームを導入した理由
トヨタがTNGAという新たなコンセプトでプラットフォームを開発した理由の1つに、このIIHSのスモールオーバラップ試験があると私は思っています。
なぜなら、IIHSがこの試験を始めた当初から、トヨタはことごとく最低評価を受けていたからです。
しかし、新しいプラットフォームを採用した新型プリウスは最高評価の”Good”を取っています。
新しいプリウスのプラットフォームを見てみると、これまでに無かった構造がとられています。
おそらく、IIHSのスモールオーバラップ試験のために、また実際に起きる事故の対策とために、このような構造を設けたのではないでしょうか。
いかがでしたでしょうか。
このように、実は車には目に見えない部分にも、日々進化があるのです。
まとめ
- IIHSはユニークな衝突試験を行なっているアメリカの機関
- トヨタが新プラットフォームの開発を迫られた背景にはIIHSのスモールオーバラップ試験がある
- 車は目に見えない部分にも進化がある